11 月 5 日、中国科学技術大学の周少華教授と熊鵬特任研究員のチームが、RNA 配列の基礎モデル structRFM を Nature に発表した。ペアデータ、モデルの重み、ソースコードまで一式が公開されている。新たな大模型が生命科学に入ってきた、と片付けるのは簡単だが、論文を読み解くと変わっているのは「何を学ばせるか」である。従来のモデルは塩基の並びだけを読んでいた。今回は、その並びがどんな形に折れるかまで同時に覚えさせる設計になっている。
RNA は遺伝情報とタンパク質の間の運び役として説明されることが多いが、その説明は実態を小さく見せてしまう。タンパク質合成に関わる一方で、遺伝子発現の制御やスプライシングにも関与し、働きは一次配列と二次・三次構造の両方に左右される。同じ塩基配列でも構造状態が違えば生物学的な帰結は変わりうる。A・U・C・G を四つの文字としてだけ扱う 学習では、最初から情報の半分を落としていることになる。
タンパク質合成に関わる一方で、遺伝子発現の制御やスプライシングにも関与し、働きは一次配列と二次・三次構造の両方に左右される。
これまでの主流は、タンパク質で成功した手法を持ち込むやり方だった。大規模な配列で自己教師あり事前学習を行い、下流タスクごとに微調整する。ところが RNA には面倒な事情がある。構造予測は長く独立したツールチェーンとして育ち、配列モデルと構造モデルが別々の前提で動いてきた。結果として、課題が変わるたびに特徴量を作り直す羽目になり、ラベルデータが少ないタスクほど割を食う。スプライス部位の注釈と構造推定を一つの研究で往復したことがある人なら、この摩擦は身に覚えがあるはずだ。

structRFM が最初に手を付けたのはアーキテクチャではなくデータである。計算で注釈づけた約 2100 万件の「配列—二次構造」ペアを構築し、どの塩基が並んでいるかという問いと、どの塩基がどの塩基と対になるかという問いを、同じ学習単位に縛りつけた。計算注釈は実測ではない。この但し書きには後で戻る必要がある。ただ少なくとも、構造情報が後付けではなく事前学習の監督信号として入ったことは確かで、しかも教師信号は密である。配列の末端に一つのラベルがあるのではなく、各位置に対応関係が載っている。
学習済みモデルは、配列を一本入力するだけで三つの粒度の表現を返す。配列全体、塩基一つ、そして塩基のペアである。二次構造は本質的にペアリングの問題だし、スプライス部位は局所的なラベリングに近く、相同性の分類には全体像が要る。一つのエンコーダで三粒度を賄えると、下流の研究は「特徴量を作る」ところからではなく「既存の表現で問いを立てる」ところから始められる。計算生物学で最もコストがかかるのは、たいていこの部分だ。

評価タスクがわざと雑多なのも、同じ主張の裏付けである。二次構造予測、ゼロショットの相同性分類、スプライス部位予測、内部リボソーム進入部位の認識、非コード RNA の分類。もし構造の前提が本当に身についているなら、これらは一緒に良くなるはずで、特定の指標だけが都合よく伸びるはずがない。さらに、この表現を三次構造予測のパイプラインに流し込むと 3D の結果と付随する二次構造がともに改善した。二次のペア情報が三次の折れ方を絞り込むのは物理的に筋が通る。新規に公開された RNA ファミリーでも性能が保たれ、長鎖非コード RNA には分割の手法で対応した点も、固定テストセット上の小数点より実用的だ。生物データベースは毎日のように新しいファミリーを増やしていくからである。
公開の範囲も珍しい。ペアデータ、重み、コードがすべて揃っている。計算生物学では、重みよりデータの方が再現しにくい。注釈パイプラインのパラメータ、版数、フィルタ条件が一つでも違えば結果は合わなくなる。重みだけ出して「公開しました」と言っても、実際には追試できない論文は少なくない。加えて、構造ブランチとマスキング手法を別々に外して測るアブレーションが付いているため、後続の研究は「どの部品が効いたのか」を手がかりにできる。もっとも、計算注釈は実測の代わりにはならず、ゼロショットで良いからといって臨床で使えるわけでもない。相同情報がまったく無い折れ方にどこまで効くかは、実験が答えるべき問題として残る。公開とは、その検証をコミュニティに渡したということだ。





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